ERの意識障害の疾患として想起しなければならない、水中毒についてまとめました。
具体的な治療方針は症状や経過によって大きく異なるので注意が必要です。
まずは原因を把握し、しっかり診断できるところからマスターしましょう。
水中毒
1.ポイント
●統合失調症など精神疾患を持つ患者で想起すべき疾患の一つである
●治療は症状の重症度によって異なってくる
2.疾患概念・症状
腎臓が正常に機能して最大限に希釈した尿を排泄しても追いつかない程の、大量の水を摂取したことにより生じる。
中枢神経症状:嘔吐や痙攣、昏睡など
3.疫学
統合失調症入院患者の10-20%に多飲症がみられ、
そのうち3-4%は水中毒症状を呈するという報告がある。
4.原因
多因子が関連していることが多い
低張な輸液の投与
精神神経疾患の症状
向精神病薬副作用の口渇感による多飲
高齢者の溶質摂取不足(tea and toast症候群)
向精神病薬やストレスによるADHの分泌亢進
5.検査・検査所見
最大の希釈尿: 50mOsm/L
1日の平均的な溶質摂取 : 約600mOsm(10mOsm/㎏)
➡最大希釈尿は多くても12L/日程度
6.問診・診察のポイント
低張性低Na血症の治療に準じる
症候性(中枢神経症状:嘔吐や痙攣、昏睡など)
進行性(尿と血液の張度の比較)
急性(発症後3日以内か)
治療途中で急激に大量の低張尿が排出されて、Na値が一気に上昇する現象がある
水中毒は尿の希釈能が保たれているため、基本的には水制限のみで補正される
飲水制限の目安:体重(㎏)×10(mOsm)÷尿浸透圧(mOsm/㎏)
➡高張食塩水による補正の適応 3%生食を使用の検討
補正の予測にはAdrogue-Madias式を使用
輸液1L投与後の変化:ΔNa=(輸液中[Na]+[K])-血清[Na]/総体液量+1
治療途中で急激に大量の低張尿が排出されて、Na値が一気に上昇する現象がある
水中毒は尿の希釈能が保たれているため、基本的には水制限のみで補正される
飲水制限の目安:体重(㎏)×10(mOsm)÷尿浸透圧(mOsm/㎏)
治療中の脱水補正により、ADHの分泌が低下することがある
式は尿量や不感蒸泄を考慮していない
【具体的治療】
10%NaCl20ml 6A + 生食400ml
痙攣・昏睡がある場合には、㎏あたり1ml/hで開始
痙攣・昏睡が無い場合は ㎏あたり0.5ml/hで開始
7.治療の合併症
横紋筋融解症(RML)
細胞外浸透圧の急激な変化で細胞膜が脆弱化して起こるといわれている。水中毒患者の場合は腎機能障害が起こりにくい
浸透圧性脱髄症候群(ODS)
補正後2-6日後に発症
四肢麻痺、意識障害、痙攣、言語障害など
MRI T2で高信号となる
(出典:2011年放射線科診断専門医試験問題11)
8.引用、参考文献
Language guiding therapy: the case of dehydration versus volume depletion.
Mange K, Matsuura D, Cizman B, Soto H, Ziyadeh FN, Goldfarb S, Neilson EG
Ann Intern Med. 1997;127(9):848.(PMID:9382413)
Disorders of plasma sodium–causes, consequences, and correction.
Sterns RH
N Engl J Med. 2015 Jan;372(1):55-65(PMID:25551526)
Hyponatremia and the Brain.
Gankam Kengne F, Decaux G
Kidney Int Rep. 2018;3(1):24. Epub 2017 Sep 1.(PMID
29340311)
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